【まんが日本昔ばなし】理不尽な運命を背負わされた女の子の悲しい話

「まんが日本昔ばなし」で放送された北国に伝わる民話が「雪むかし」をご紹介します。
雪にまつわる昔ばなしはたくさんありますが、なかでも雪がしんしんと降る夜は、このお話を思い出してしまうという人がいるかもしれませんね。
理不尽な運命を背負わされた、純粋で心優しい女の子のとっても悲しい昔ばなしです。
雪むかし
むかしむかし、北国では降り積もる雪がまだ本当に白い色ではなかった頃の話です。
そんな北国の大きな庄屋の家に遠い村から小さな娘っ子が奉公にやってきました。
お女将「遠いとこから、よう来たのう。今日からはここはお前の働くところじゃ」
娘っ子「一生懸命働くだで、よろしくおねげえございます」
お女将「そこにいるのは、お前さんと一緒に働く姉さんたちだ。あいさつしろ」
娘っ子「姉さんたち、よろしくおねげえします」
姉さんたちが火鉢にあたっているときも、娘っ子はひとりでも良く働きました。
ご飯はちゃんと食べられるし、ときたまは火鉢にもあたらせてもらえる。
朝早くの炊事洗濯は辛かったが、故郷の村にいる時よりずうっと楽だと思えるのでした。
そんなある日、その夜の宴会の準備で忙しい奉公人達が遅い昼食を食べていた時のことです。
「すみません。わずかなものでもよいので、食べ物を恵んでもらえないでしょうか…」
そう言ってボロボロの身なりの旅の坊様が突然やってきました。
お女将「北の国の冬に人様に恵んでやる食べ物なんてあるわけなかろう…すまねえが他所へ行っておくれ」
庄屋のお女将はそう言って坊様を冷たく追い払いました。
その様子を見ていた娘っ子は坊様のことを思うと自分が食べている昼食を食べてしまうことができませんでした。そして、大切なご飯でしたが、それを握り飯にして坊様の後を追いました。
娘っ子「坊様~、坊様~、待ってけろ~」
そういって娘っ子は自分の大切な昼飯でつくった握り飯を坊様に差し出しました。
坊様「旅の途中で何もないが握り飯のお礼です」
そう言って坊様は娘っ子に紅い布と鈴をくれたのでした。
娘っ子「きれいな布に可愛い鈴、ありがとう~」
坊様は娘っ子を後にして、そのまま降りしきる雪の中を歩いて消えていきました。
やがて宴会が終わり、招かれた人は帰ってきました。
当然ながら奉公人達が後片づけをしなくてはならないのですが、姉さんたちは疲れた疲れたと言って娘っ子を一人残して部屋に戻ってしまいました。
仕方なく娘っ子がひとりで後片づけをはじめようとした時、娘っ子は坊様に貰った布を汚れた茶椀の中に落としてしまいました。
すると、布が落ちた茶椀だけがピカピカに綺麗になっていました。
娘っ子「あんれ~不思議なもんだ。茶椀がきれいになっとる…こっちのお皿はどうだべ」
娘っ子が別の汚れた皿をふいてみると、布は汚れずの皿だけがきれいになっていました。
そこで、思い切って宴会の後をすっかり片付けてしまったのでした。
坊様にもらったその布を顔にあると、えらく暖かく、ふくよかな香りさえ漂ってくるようでした。
その時、後片づけを娘っ子に押し付けて部屋に戻っていた姉さんが様子を見に来ました。
姉さん「ちゃんとやってるかい?…あれま、いつの間にきれいに片付いただ?…あっお前~!」
そこで姉さんは驚きました。振り向いた娘っ子の顔がやけに美しくなっていたからです。
姉さん「すっかり綺麗になってしまって、どうしただあ?」
姉さんに言われ、娘っ子が井戸端に行って自分の顔を桶の水に映してみました。
娘っ子「あれま~本当にうら(私)なんだべか?」
そう言って、いつまでも自分の顔を眺めていました。
その話を聞いた庄屋のお女将は「どうしてそんなに綺麗になったんだ」と娘っ子を問いただし、布と鈴を取り上げてしまいました。
お女将「このきれいな布と鈴は、おらのところの飯でもらったもんじゃ、だから、わしがもらっとく…いいな」
娘っ子はうなずくことしかできませんでした。
その晩、お女将は娘っ子から取り上げた布で顔を拭きました。すると…
お女将「ひゃあああぁぁぁ!!!」
お女将は綺麗にばるどころか、シワとしみだらけの顔になってしまいました。
お女将「何でお前が美しくなって、なぜ、わしがこんな顔にならなきゃいかんのか。お前の顔など見とうない。出ていけ。出ていけ…」
おかみさんはすっかり怒ってしまい、娘っ子を家から追い出すことにしました。
奉公人「大変なことをしてくれた。すべてお前が悪いんじゃ…悪く思うなよ」
奉公人のひとりがそう言って、娘っ子は布と鈴と一緒に家から放り出されました。
娘っ子「おら、ここを追い出されたら生きていけねえだ、堪忍してけろ~。お願いだあ何でもするから置いてけろ~置いてけろ~」
しかし、娘っ子の必死に泣き叫ぶ声も、お女将の耳には届きません。
家を追い出された娘っ子は、坊様にもらった鈴をチリンチリンと鳴らしながら、雪が降りしきる中とぼとぼと歩いていきました。
娘っ子は山里の自分の村へ帰ろうとしましたが、飲まず食わずでいくつもの山を越えなくてはなりませんでした。
そのうえ、この雪と寒さです。歩くたびにチリンチリンとなる鈴の音が、次第に途切れ途切れになっていきました。
やがて精根尽き果てた娘っ子は、とうとう雪に埋もれるように倒れてしまいました。
すると不思議なことに娘っ子の手元の布から、白くなった雪が広がってゆきました。
そうして真っ白な雪が娘っ子の上に降り積もっていきました。
北国の雪が本当に白い色になったのは、こんなことがあってからだということです。
