なんちゃってバイリンガル、いまどきメンズ

俺は自称「なんちゃってバイリンガル」。
大学の時にハワイに語学留学して以来、「どうなんだ、調子は?ブラァ」ってな具合でそこそこイケてるガイドブック調の英会話が身に付いた。
実は留学先のホストファミリーに話し好きなおばあちゃんがいて、彼女の話に四六時中つき合わされたおかげで、日常会話と大げさなうなずき方だけはネイティブアメリカン並みに習得できたと自負している。
大学を無事卒業し、1,000分の1の確率をまぐれで突破して就職した外資系商社に勤めている俺は、つい先日もハワイに打ち合わせの国際電話をした。
「さっ、国際電話、と」ダイヤルしながらカタカナっぽい発音に備えて「アッ、ンーン」と鼻にかかった咳払いが朝のオフィスにこだまする。
「トゥルルルル…トゥルルルル…Hello?」つながった先は某会社の受付嬢様(ちなみに想像上はヴィダルサスーンシャンプーの残り香がするブロンドヘアとハイヒールが似合う長身)が通話が始まるやいなや、周りに聞こえるような大きな声で俺のイングリッシュトークを炸裂させた。
「オー、ハァイ、マイネームイズサトシ、ハウアーユゥ?ウェール、アイライクトゥトーカバウト××カンパニーズメインコンスアァーニング…」 (特にアールの発音は必ず宇多田ヒカルの英詞にも引けを取らないくらいにおおげさにするのがポイント)
実際込み入った内容だった、とゆうか要件をうまく説明するのに手間取ったせいで、ちょっとした長話になってしまった。
だが眉毛を上げたり下げたり、片手を回転させるニューヨーカーばりのジェスチャーは入れておいた。
しかもデスクにコーヒーが置いてあったら時折すすりながら話していたことだろう。
「……you koow?」(ってゆうか本当に通じてるんだろうな?)とりあえず俺は要点を話をした。
生ぬるい汗が額に浮かび、首筋に流れ落ちるのを感じる。おそらく5分もかかっていなかっただろうが、30分はぶっ続けに話した気がする。
最初から最後まで俺の話に耳を傾け「アーハン、フーフン」とあいずちを打っていたブロンド(のはず)の受付嬢がそこでやっと口を開いた。
「……じゃあ、つまり、当社の利用規約に関する資料をメールさせていただきまして、御社で至急そちらのクライアントと検討していただけると言うわけですね。それではメールアドレスなんですが、よく聞き取れませんでしたので恐縮ですがもう一度おっしゃっていただけませんか」
「!?」(にっ、日本人やないけ、はよ言わんかい!!)
俺が額に汗してまで英語で話した内容は、奇しくもコテコテの3行程度の日本語、しかも早口の関西弁でペラペラと言い直されて島しまった。
そのとたん俺はその場でコケそうになってしまったのは言うまでもない。